だけど、疲れは吹き飛んだかな。

「平気であります!」

「無茶して飛ばすから焦った。」

そっか、追いかけてくれたんだっけ?

「ぶっ倒れるなら今のうちだぞ。」

「あたしは頑丈に出来てるので心配ご無用だ。」

休む暇もない方がずっといい。

忘れて毎日を過ごしたほうが楽しいままで済む。

コツコツと廊下を駆けてくる足音が聞こえた。

看護師さんかなと思っていたら見慣れた姿を

発見して目を見張った。

「透真!」

そこに颯爽と現れて兄ちゃんを呼ぶのは

学校でも有名な美人先生と言われる彼女で、

あたしも一度お会いしてからはよく話をする

ようになっていた例の帰国子女な心理カウンセラー

を担当する先生が心配そうな顔をして走ってきた。

「あ、菜南ちゃん」

兄ちゃんがヒラヒラ手を振る。

えっ!?

ちょっと、待て!

「もう心配したじゃない!」

「あはは、ごめん菜南ちゃん。」

「気をつけてよ。あんまり冷や冷やさせないで。」

「ごめんって菜南ちゃん。」

な、幻覚!?これ妄想なの!?

「みんな、あたし未だ夢の世界から帰還出来てないようだ。」

「日和、あれって心理カウンセラーの先生だよね?」

「見事に来るもの拒むって噂の?」

「あんな美人先生なんて居たか?」

みんなも唖然と見つめていると、

先生が兄ちゃんに抱きついた。

「ごめんって菜南ちゃん。ほら、俺不死身だから

死なないってずっと一緒に居るって約束しただろ?」

「うん」

「ぶーっ!!」

えっ、何今の会話!?

「日和、ジュース溢れてるわよ!」

バシっと叩かれても現実に戻ってこれなかった。

サユの愛の鉄拳がこの度打ち破られた。

買ってもらったオレンジジュースが床に

零れおちて目の前の現実から逃避行する魂を

元に戻そうと努力してみるものの夢だと信じて疑わなかった。

嘘だ、兄ちゃんにあんな素敵な人が彼女なわけない。

すごく優しい先生が兄ちゃんの彼女だなんて

世界の破滅が近づいているに違いない。

帰ったら、この世に未練を残したことを

さっさと片付けるべきだ。