俺だって娘は居ないから娘のように思ってる。

何も出来なかった自分の罪滅ぼしぐらいには

日和ちゃんのために何か出来ないかと考えてる。

何を言っても日和ちゃんはいつも表情を変えない。

それは微かに未依ちゃんの雰囲気がある。

未依ちゃんもあまり表情が豊かな方じゃないから

朝陽に惚れたのだと結婚する前に言っていたな。

朝陽はよく笑うし、泣くし、怒るし、喜ぶ。

感情豊かすぎるんじゃないかと思うところが

あったが、その笑顔に慰められた、その

涙に悲しみを緩和出来た、その怒りに酷く

助けられた、その喜びに心穏やかになるこ

ともあったと思う。

だから、日和ちゃんが笑うと嬉しかったんだよな。

あの笑顔にはもう二度と出会えないんだろうか?

何があの子の笑顔を奪ったんだろう?

それを隠してる家族には何が遭った?

今もずっと後悔してることがある。

日和ちゃんに笑顔が失くなったことを

もう少し問い詰めたりすれば俺にも何か

出来る事があったんじゃないか?

朝陽があんなに悲しむことはなかった。

透真が大泣きすることもなかった。

朔夜も未依ちゃんも隠していることは

きっと何か悪いことだってことぐらいしか分からない。

今更、俺には何も出来なかったことを後悔すること

しか出来ないのだからせめて日和ちゃんの今を大事

してあげることしか俺には出来ない気がしてならない。

会長が何を考えて日和ちゃんに会社を継ぐように

言ったかは知らないが、幼い日和ちゃんに一ノ瀬

を継がせようと迫ったことは確かで案の定日和ちゃんは

10歳から継ぐと言っていた。

継ぐと言った時からその意志の強い瞳に驚いた。

小学3年生になったぐらいの女の子が言うような

ことじゃなかった。

そんな日和ちゃんがどんな時でも涼しい顔をして

いつも同じ顔をするものだから今日は少し意地悪

をしてみたくなったものだけど、やっぱり表情こそ

崩すことは出来なかった。

ナイフを落としたのは動揺だと信じてもいいだろうか?