伊織がやれやれとため息を吐くと、
トントンと扉にノックの音が響いた。
「古河さん、お電話入ってます。」
「はいよ、じゃあ行くとするかな。」
気ままにやってきたに過ぎないのかな。
ヒラヒラ手を振ってじゃあなと言うと
扉を閉めて去っていった。
「千治、あの時上條に何か言ってたよな?」
「・・・・・・ん?」
そして、ここにも呑気なヤツが1人。
マイペースがいいところでもあるんだけどな、
今の事態で少しはペース崩されても可笑しくないはず
なんだけどな、最中何個食べたんだ・・・・。
山積みになった最中の入っていた包装紙を見て、
少々頭が痛くなってきた。
少しすると千治が徐ろに席を立った。
そして、ドアノブを回すと警官なのか
分からないスーツ姿の若い男性が驚いて
目を見開いたと思うと素早く立った。
「君たちはまだ!」
「便所どこ?」
千治はどこに言っても自分のペースを崩す
つもりはないらしい。
「えっと、向こうだけど・・・」
前髪を邪魔そうに髪を掻きながら、
トボトボ歩いていく千治を見て
考えすぎなのかと思い改めた。
何だかんだ、最悪な状況は避けられた
のだから何も心配する事でもないのか。
あの時、血の海に膝を折って座る
日和ちゃんを見た瞬間少しは諦めていたかもしれない。
多分、このまま日和ちゃんも同じように・・
ただ怪我さえなかったことを喜ぶべきこと
なのだろうけど、今まで過ごした思い出だけでも
感謝をしなくてはいけないほど救われた来たのに、
日和ちゃんも同じように嫌になって逃げ出すんじゃないか
って思ったらこれで良かったのかもしれない。
疑いが晴れたとしても、元に戻らない方が
日和ちゃんも平穏な生活を送れるだろうし、
こんなに怖い思いをしなくて済む。
そっちの方がずっと幸せでいいのかもしれない。
――――――・・・・・これが俺たちに出来る最善策だっただろう。

