そんなことが許されるわけがない。
「もう決めたことなんです。伯父様は私が一ノ瀬を
継ぐのは嫌だろうが一度決めたことには誠意を持ちたい。
信用される人間になるには簡単に揺らいでしまわない
ことだと母さんがよく言ってました。」
「うん、未依ちゃんが言いそうなことだね。」
苦笑いを浮かべる伯父さんに愛想笑いを浮かべた。
「あたしは母さんみたいな人になりたい。
強くありたいからこそお祖父様のお話を承諾しました。
その気持は今も昔も変わらないんです。」
こんな時に笑みを浮かべられないあたしはやっぱり
表情が乏しいらしい。
「日和ちゃんは十分強い子だと思うよ。
未依ちゃんそっくりで気が強いみたいだし、
外見は朝陽の方が似てるように思えるけど、
中身はずっとしっかり者の未依ちゃん譲りだ。」
そんな、まだまだほど遠いよ。
母さんのようにはまだなれない。
強くありたいと思えば思うほど程遠く感じる。
「一ノ瀬を背負うってことになると環境が
ガラっと変わるんだよ?今まで普通にしてきた
ことも出来なくなる。社交界の場にも出なくては
行けなくなるし、もしかしたら一ノ瀬を背負うことで
日和ちゃんには自由が一切与えられなくもなる。
言ってる意味は分かるよね?」
それも覚悟の上で決めたことだ。
大学には行けないだろうって思ってた。
だからこそ、高校は自由に選ばせてもらった。
せめて、高校生活だけでも自由で居たかった。
「分かってます。」
「分かってないよ!もしかしたら、知らない人と
婚約しなくちゃならなくなるかもしれないんだよ?」
一瞬、手に持ったグラスを落としそうになったが、
涼しい顔をしたままグラスに口を付けた。
「覚悟はしてます。」
誰かも分からない人と婚約させられるのか。
それは思っても見なかったな。
もしかしたら、あたしよりもずっと年上のおじさん
とかだったらさすがに断ってもいいよね。
誰であろうと興味はないけど、さすがにあたしだって
選ぶ権利ぐらいもらえるでしょ?

