みんなの表情が見えないと余計不安になる。
視界が遮られた沈黙は無の世界のようだった。
「何で黙ってしまうんだ?」
沈黙が居た堪れなくなって言葉を投げた。
「普通も何もこんなことが日常茶飯事に起こるし、
不良ってのは喧嘩が商売だからな~」
おちゃらけて言う伊織君の言葉に今度は
何も言葉に出すことが出来なかった。
「こんなことは言いたくないけど、日和ちゃんと
一緒に居ない時はたまに喧嘩をして相手を病院
送りすることもある。」
すぅーっと大きく息を吸った。
「ご、ごめん、あたし勉強不足でもっとよっちゃんや
ももっちに聞いとくんだった。えっと、あたしも
な、慣れる努力を」
「おめぇはそんなもんに慣れようとすんな。」
「なっ、何で!?」
慶詩の言葉にショックを受けた。
「こんなことに慣れてる方が普通じゃねぇんだよ。」
「でも、日常茶飯事なんであろう?」
「おめぇの日常には関係ねぇ話だ。」
ど、どうしてそんな突き放すようなこと言うの!
「ヒヨリンが普通に生活する上ではこんな状況に
陥ることなんて殆どないに等しいだろ。」
ゆ、ユウヤまで慶詩に加勢したようなこと言って!
「だ、だって、あたしは!」
「分かれよ、おめぇと俺らとでは住む世界が違ぇんだよ。」
心にザックリ突き立てる矛先に心臓がえぐり取られる
ような痛みを感じた。
「い、一緒だよ。だって、同じ教室で勉強して、
放課後だって遊んだりなんかしてそれが日常だったではないか。」
今までのことを全部なくすようなこと言わないでよ。
全部嘘だって言ったらまだ許す。
あたしだって分かってたはずだった。
もしかしたら、自分が言ってたかもしれなかった。
どんなに頑張っても一緒のラインには立てない。
喧嘩をする毎日なんてあたしは知らない。
血を見ることが普通だなんて思ってもない。
だけど、一番口にして欲しくなかった言葉だ。
あたしとみんなの境界線をくっきりと分けた
その言葉の全てがあたしたちの立場だった。

