伊織が煙草に火をつけて灰皿を引き寄せる。
「ウチのひよこ姫は賢いが鈍々なのよ~」
ふうと吐き出した紫煙が部屋に舞う。
「だから、呑気で居てくれりゃいいの。
それがウチのボスの言い分でね。」
ふと中塚と上條がちぃーを見た。
「だったら、尚更ヤバイんじゃないか?」
上條はやれやれと表情を変えずにたい焼きを
頬張るちぃーから視線を外した。
「もし、彼女が被害者になったりしたら手遅れですよ?」
中塚がパソコンを弄りながら呟いた言葉に
ちぃーが首を傾げる。
「あのドチビ被害者になるようなタマじゃねぇーよ。」
確かに、危なかっしいところがある。
事件の中心に居たり首を突っ込むことも多々ある。
「それに、日和ちゃんには日和ちゃんの将来がある。」
そうだ、ちぃーが前に言ってた。
ヒヨリンには絶対にこっちの世界のことで巻き込まない。
それは何よりもヒヨリンの将来を俺たちで潰しちまわない
ように守りたいのが本当の理由だ。
「ヒヨリンはな、天才なんだ。今度だって模試っていう
頭が良い奴が試験受けるヤツにも参加するんだ。」
俺たちと本来接することすら珍しい秀才のヒヨリンは
誰からも期待されてる。
だから、そんなヒヨリンの将来を俺たちみたいなヤツと
関わったせいで潰すことなんて出来ねぇ。
少なくとも、俺たちと関わることでヒヨリンが
嫌な目に遭ったりしないように。
「だから、ヒヨリンには余計なこと言わねぇし、
巻き込まねぇって鉄則のルール作ったんだ。」
ヒヨリンは勉強大好きだからな。
「へぇ~、日和ちゃんにはそんな原動力があるんだ?」
上條が益々女神だね~と言っている。
さすがにそれは言い過ぎだと思う。
女神って柄じゃねぇよな。
「ですが、いつかは彼女に矛先が全て行き着く
可能性もありますよ。まだ水面下でしか動いてない
中央地区のことも然り北地区もあなた方の大切なお姫様
を真っ先に潰しにかかる。」
中塚の言ってることは最もな話だ。
ヒヨリンが俺たちと関わってる限り安全なんて保証はない。
そんなことは誰もが分かってる。
だからこそ、その時はその時で守るんだ。

