上履きで地面を歩くのは抵抗があったが仕方あるまい。

後で、雑巾でしてやるからなと視線で訴えた。

「きゃっ」

サユの声が前で聞こえたと思ったら倒れてきた。

「さ、サユ!!」

サユを懐に何とか支える隙に横を誰かが通った。

焦って走っていくような顔はあまり見えなかった。

ただ、甘い香りがして髪色がオレンジだったような

気もしなくはない。

「大丈夫よ、全く急にぶつかってきて誰よ!」

どうも、プンスカ怒ってるみたいだ。

そして、また裏門に近づこうとするたび

独特の異様な雰囲気が肌をピリピリさせた。

一歩踏みしめるたびに誰かに見られてる気配がして

後ろが気になって前を全然見てなかった。

誰かの視線を感じることなんて・・・変だ。

まさか、誰かあたしにとり憑く気でいるんではないか。

学校だから心霊現象がって妄想してたせいで気付かなかった。

「えっ、何コレ?」

サユの声が異様に震えている気がして、

前を振り返ると血の海が広がっていた。

声が出ないってこういう事なんだって思った。

「ちょっと、あんた待ちなっ」

人影を追うサユを前にしても酷く体が震えた。

ギリっと頭の奥の何かがプツリっと切れたように

痛くて片膝を付いた。

脳を激しくカナヅチでような気がしてフラッと意識が

飛びそうだった。

何故か、血に濡れた手を思い出して心臓がギュッと

握りつぶされるような痛みを感じた。

駄目、これ以上何も見てはいけない。

それなのに、止めど無く溢れる血液にどう

対処すればいいのかすら分からなかった。

「あの、しっかりして下さい。今、救急車を・・」

ガタガタ震える手でケータイを取り出して、

ボタンに手を掛けようとした瞬間だった。

ふわっと香る柑橘系の香りが視界を全て

奪い去ってしまった。

ドクンドクンっと心臓の音が聞こえるだけで、

呼吸の仕方さえ忘れてしまったのか。

ただ、酷く安心出来たその香りに震えがいつの間にか

止まったのは気のせいだって信じたい。