さて、商談もあることだからさっさと会社に

戻らないとならないな。

するりとした風が吹き空気が一瞬に澄んだ。

「あのね、サユこの新刊は世紀の大作と

言われてるのだよ!!修平君に会わなくては・・」

一目会えて良かった。

多分、今回も会わずして日本を発つ予定だった。

それにしたって、最近の彼女は幸せそうで

そんな表情を見れて気が晴れていく。

この先の不安なんて思わせないようなさっぱりと

したその笑みを見れば十分だ。

『ああ、大和仕事よ。一週間後には帰って来て。

そっちで資料の整理もしてきてくれないかしら。』

あなたにそっくりな彼女のことだからこそ、

きっと彼女は誰よりも強いんだろう。

「急ですね、しばらく、戻ってこなくていいんじゃ

なかったですか?」

『急な仕事が入ってこっちはてんてこ舞いよ。

日和はお義兄さんに会ったんでしょ?』

「はい、食事だけでしたから。」

『そう。まだ、向こうも目立った行動に

出てないはずでしょ?あの子のことは少し

心配だけど大丈夫よ。あたしの娘だもの。』

「ええ、ではこちらの仕事を片付けて

一週間後にそちらに向かいます。」

『悪いわね、少々調べて欲しい案件があんのよ。』

「珍しいですね、調べて欲しい案件とは?」

ひと呼吸置くとゆっくりとため息を吐く未依さん。

『嫌な予感すんのよね、あの人が呑気にしてる内に、

こっちも動き出したら厄介なことになるわ。』

「はい、では慎重にそちらの件に取り掛かります。」

『悪いけど、こっちに戻ったらあたしの社長室に

向かってくれるわね?』

車に滑るように乗り込むとアメリカ土産のチョコレートが

溶けてシートに染みを作った。

「それは、多少時間の掛かりそうな案件ですね。」

『そうね、でも優秀な大和になら任せられる仕事よ。

多少の危険も伴うわ。』

「そうですか、ならば早急に仕事を片付けないとなりませんね。」


そして、新たな影が立ちはばかる前に発とう。