彼女がそもそも彼を甘やかしすぎだ。
「だけどさ、時々すげー怖くなるよ。
お前もひーちゃんが壊れたこと知ってるだろ。
大和の場合はその時のひーちゃんを見たわけじゃ
ないだろうけどさ、もうあんなひーちゃん見たくない。」
悲痛な声を漏らす彼にとっては深い傷になっているのだろう。
もちろん、一番の深い傷を負ったのは彼女。
記憶を失くした彼女にはそれすらも覚えてるどうか定かではない。
「ですが、日和様が傷つくことは今後一切ないです。
彼女は俺が必ずお守りすると約束しましたから。」
「頼もしいこと言うじゃん。」
「俺だって彼女の傷ついた顔は見たくありませんよ。」
出来ることなら、彼女が幸せになるところを見届けたい。
「ひーちゃん、最近楽しそうなんだ。
友達もたくさん出来たみたいでまた笑うようになった。
気付いてるかどうか分からないけど、ひーちゃん決まって
“アイツ”の前ではよく笑ってただろ?」
“アイツ”の前でよく笑っていたのか。
「“アイツ”が居なくなってからまた笑わなくなったって、
サユリちゃんがそんなこと言ってた。」
確かに、そうかもしれない。
「そうですか。」
彼女から“アイツ”の名を聞くことは“アイツ”が
姿を消してからなかった。
「大和はどこに行ったか検討なんてつかないよな?」
検討なんてつくわけがない。
「ごめん、分かってはいんだけどな。“アイツ”
掴みどころないヤツだったから探せるわけないか。」
「心配せずとも彼は簡単に日和ちゃんを手放した
わけじゃないと思いますよ。」
そんな彼には敵わないと何度も思った。
「そうだといいな。」
深いコバルトブルーの瞳は未依さん譲りで、
温かく笑う表情は心地よく感じた。
「いつか戻ってくると思う?」
「どうでしょうね。彼なりにしなくてはならない
ことでもあるんでしょう。」
「何だよそれ、やっぱり何か知ってるのか?」
「いいえ、知りませんよ。」
彼がどこに行ったか言うまでもなく彼女のためだ。
彼女のことを心底大事にしていたのだからそれは
もう確証なんてどこにもなくても信じられること。

