11月も半ばに入った何もないその日にわざと

それを狙ったかのようなタイミングでかかってきた。



『お久しぶりでございます』



時節、あたしは自分が何者か分からなくなる時がある。

不幸中の幸いだったのはその日兄ちゃんが家に居なかった

ことで、もしも兄ちゃんが家に居たらあたしは迷わずこの

電話をブチ切ってたと思う。

「はい」

恐れることは何もない。

あたしの方が優位な立場なことに変わりない。

それなのに、どうしてこんなに揺らぐ自分が居るんだ?

『この間、連絡させて頂いた時はお出にならなかった

ようなので、もう一度掛けさせて貰いました。』

「そうですか、すいませんでした。何分、学生の身ですから

行事の多い季節で手が離せなかったようです。」

『それは失礼しました。』

キリリと胃が痛くなってソファーに腰を置いて、

お腹を右手でゆっくりと摩った。

「ところで、こちらに連絡せぬようにと佐伯に

申し付けたはずですが?」

『すいません、早急にとのことだったので、

ご連絡させて頂いた次第です。』

「そうですか、次からは気を付けて下さい。

何か連絡がある場合には佐伯を通してからに

して頂かないと困りますから。」

言葉がスラスラ出るのは緊張してるからじゃない。

もうさすがにこの喋り方が慣れてしまった。

『畏まりました。失礼をして申し訳ありませんでした。

次からは気を付けますので、本題に入ってよろしいでしょうか?』

言葉に棘があるように感じてしまうのは、

その言葉が作り物のように感じるからだろう。

ジョセフィーヌがあたしを見上げて不安そうな顔を

して膝の上で大人しくしている。

「ええ、構いませんよ。」

一体、こんな時期に何の用事かしら?

11月の半ばなんて中途半端なこの時期に

大和さんに連絡をしないであたしに直接連絡

するなんて嫌な予感しかしない。