それから、稜さんの遺伝なのか漆黒の瞳が
ユラユラ揺れるように動く。
「そ、そんなに重症だったのか?」
た、大変だわ!!誰か救急車を至急呼んでくれ。
ちぃ君がダウン目前だそうだ。
「いい加減にしろよ。」
その言葉で妄想劇場が閉幕する。
「ご、ごめんなさい。嫌な気持ちになった?
な、何が駄目だったか事詳しく説明して
くれると打開策を考えて始末書書いてくる。」
ちぃ君が怒るのも当然な話だ。
あたしのようなヤツがそんな簡単に家の
敷居に跨ぐなと思っても・・・ショックが
大きすぎてどうしようもない。
「だから、その」
嫌いにならないで。
言おうと思った瞬間に頭の上に手が置かれた。
「俺が怒ってるのは分かるか?」
「う、うむ。」
「どこの誰とも知らねぇヤツに簡単に
付いて行ってんじゃねぇ。」
「いきなり車に押し込められたのだが・・・」
「だったら、逃げろ馬鹿。」
「えっ、お知り合いだもの。」
「だものじゃねぇ。
そいつが何してるか分かってんのか?」
「それも・・・・知っている。」
ちぃ君があたしを刺し殺すかのごとく鋭い
視線を向けてきて背筋が凍るかと思った。
「極道の家のもんと関わろうとすんな。」
「それじゃあ、ちぃ君と関わるなって
ことと一緒じゃないか。」
どうした、ちぃ君!
いつも眠そうにしていた君は何処へ。
「あ、あたしは嫌だ。家は関係ないではないか。
こればっかりはなんと言われようが決して意志は曲げない。」
折角、お友達になれたのに関わるなって・・・
分からなくはないよ。
きっと、あたしの立場でも同じことが言えただろう。
“一ノ瀬”に関わるなともうあたしに関わるなと。
言わなきゃならないと思う。

