「無理に思い出そうとしなくていい。
話が変わることになるが、家の家内は結構
美人でね綺麗な人だと自負しているんだ。」
「ダンディーさんがお好きになった方です
からそれはもうとんでもない美人さんそうですね。」
「俺はあまり人を好きにならないせいか、
最初から彼女が好きだったかは今も分からない。」
「こ、恋ばなとやらですか?」
「ははっ、聞き流してくれても構わないよ。
ただ、君には何故か話したくなってね。」
「ええ、是非ともお聞かせを!!」
興味深々でダンディーさんの話を食い気味に聞いた。
「初めて会った時も、彼女は学生だったから
美人な学生さんだなとしか思わなかった。」
「というと、年下の奥様ですか?」
「そうだね、丁度2歳年下だったと思う。」
と、年下の奥様とはロマンチックなお話を
聞けるのかしら!!
家の母さんと父さんの出会いの話はあまり
聞いたことがないが、確か母さんが家庭教師
として父さんに勉強を教えていたとかいう
話をマミーからこっそり教えてもらった。
因みに、家の場合は母さんの方が1歳年上だ。
つまり、かかあ天下という典型的な夫が尻に引かれる家庭だ。
「初めて会った時はそれこそ会話も何もなくて、
ただのすれ違い合っただけでそこから何か発展
するなんて話の方がなかった。」
「恋はどこからともなくやってくると言いますからね。」
あたし自身どこから転がり落ちてくるか。
感情が乏しくて未だに分からない。
それが一体どんな代物でどんな気持ちになるか
だなんて一生分からないかもしれない。
それほど、あたしには遠い話のような気がした。
「君は好きな人でも居るのかな?」
「いいえ、ただ分からない人は居ります。
それが恋なのかどうか確かめることが
出来なくて待つしかないのかもしれないと」
“あの人”への思いはどこに消えたんだろうか?
面影を探してはときめくとは違う穏やかな
気持ちになるのはきっと彼があたしにとって
空気のような人だったからだろう。

