ムクリと起き上がるとふわり甘い匂いが漂った。
夢じゃなかったようだ。
見知らぬ車に乗せられていることに気付いて、
体を強ばらせると隣からクックッと喉を鳴らせて
笑う美しき男性が1人。
「あ、あれ?すみません、夢遊病が酷いようです。
人様の車さんに勝手にお邪魔してしまい申し訳
ありませんでした。」
ぺこりと頭を下げると隣に居る男性はスッと
目尻を細めて笑った。
「いや、こちらが強引に連れてきてしまって
申し訳なかったね。」
「あなたはこの間のダンディーさんっ!」
「やっと、気付いたかな?」
こんなに素敵な人を忘れるはずがない。
まさに、これほど美しいお方に会った
ことはそんなに人生数えるほどない。
「すまなかったね、声を掛けようとした
みたいでね。具合でも悪かったかな?」
「い、いえ!とんでもないこちらこそ、
それでは先ほどの方はダンディーさんの
お連れの方だったのですか?」
「お連れか、そういうことにしておいて
くれると助かるな。」
「はい?」
ダンディーさんのお車だったとはそれでは
反転している場合じゃないな。
態勢を戻して礼儀正しく後部座席に座り直した。
「少し、時間を貰ってもいいかい?」
「は、はいっ!あたしで良ければ。」
何かしら?ドキドキしながら頷くとダンディー
さんが運転しているイカツイお兄さんに行き先を
告げて車が方向転換した。
それにしても、ダンディーさんは今日も
とても素敵すぎるわ。
運転手が居るということはお金持ちなのかしら?
そういえば、この間は何も聞けなかった。
何故、あたしを知っていたんだっけ?
そういう素振りされたから不思議に思ってた。
だけど、しばらく車の中は沈黙を貫いた。
その沈黙は居心地が悪いわけでもなかった。
ただ、少し横顔を盗み見るとやはり誰かの
面影を思わせてそればっかり考えていた。

