「これくらいかな」
ポチはペンを置いた。
横から紙を覗き込んでいたタマは、長い髪をかき上げながら疑問を口にした。
「遺書や所持品がないのに、名前はわかってるの?」
ポチは、ちらりとタマの横顔を見た。
ミステリー好きのタマは、顔を輝かせている。
「名前は後で分かったんだ。遺書でもあればすぐに分かったのかもしれないけど」
「そう……」
タマは疑問がまだあるようだ。
ポチはタマより先に疑問を口に出した。
「……遺書がないから、自殺じゃない可能性もありそうだな。靴も屋上で脱がずに、見つかったときは履いたままだったそうだし」
「ン~、飛び降りに作法がある訳じゃないけど、靴は脱がなくてもいいのよ。もともと、遺書が風で飛ばされないようにするために靴を置くんだから」
「へぇ~、そうなんだ」
「それに、遺書がないのも珍しくはないらしいよ。――突発的な自殺では、遺書なんか滅多にないそうだし」
「突発的に、か……」
ポチは、コーヒーを一口すすった。



