ポチタマ事件簿① ― 都会のツバメ ―


犬好きの女性でも、『ポチ』というあだ名の男とは付き合おうと思わないはずだ。
「ね、ね。そんなことよりもさ」
 タマは目を輝かせている。
 その表情は獲物を見つけたネコのようだ。
「今日、大変だったんでしょ?」
「――やっぱり、知ってたのか? 飛び降り自殺の件」
「うん!」
 タマの情報網にかかれば、掃除のおばちゃんの生い立ちから、会長の愛人の化粧水のブランドまで、社内のことはなんでも筒抜けである。
管理物件での自殺などはすぐに耳に入るのだろう。
 漏らす方には守秘義務があるはずだが、そんなものはどこ吹く風だ。
なにせ、ポチの部屋の合鍵も、自社の管理物件というのをいいことに、タマの一声で管理部の担当者が複製してしまったのだ。
もちろん、入居者であるポチには無断で。
タマにはそれくらいの影響力――良くも悪くも――があった。
もしも、自殺の件でポチが「守秘義務」という職責を全うしても、どうせ週明けにはタマの耳に入るだろう。
 ポチは早々にあきらめる。