「チッ」

 男は軽く舌打ちをして、鍵を拾いに行った。
 ほんの数歩。
 たったそれだけでも、普段とは違う位置から見ると、見慣れた場所にも意外な発見があるものだ。

「あれ? あんなところに通路があったんだ?」

 駐輪場の奥に、扉一枚分の大きさの開口部があった。
 普段ならコンクリートの柱で死角になっている位置である。
 マンション側面の点検用か、通風や採光用の開口部だろう。
 あるいはデザイン性――見えにくい場所なのに――を求めてのことかもしれない。
 それは一見すると通路にも見えた。

 その開口部の先には、隣のマンションの薄汚れた外壁と、暖色のライトに照らされた観葉植物が見える。
 男は眉間にしわをよせた。

「……あんなとこに電気つけて、無駄な管理費使いやがって」

 先日の管理組合の総会でも、無駄な管理費が多いと指摘があった。
 外から見えるでもない、隣のマンションとの数メートルのスペースに、ライトやら観葉植物やらを置くのも無駄ではないか。
 男はそう思った。