「藤―? 何やってんの。早く降りないと閉まるよ」


すぐ横の乗車口からかかった男の人のよく通る声に、わたしの前に立つ人が身じろぎしたのがわかる。

動かれると痛いのに~!



「いや、なんか……あ。」


その時、ぷしゅうと空気の抜けるような音がして、電車のドアが閉まった。


ああ、遅刻決定。

でもそんなことはもうどうでもいいから、とにかくこの痛みをなんとかしたい。



「あの~。わたしの髪……」


「あー……悪い。キーホルダーに絡まったんだわ」


低くて少しハスキーな声で、前に立つ人が申し訳なさそうに答えた。


ああ、そういうことか。
わざとじゃないならしょうがない。



「それ、取れますか?」


「やってみるから、ちょっと待って」



わたしは言われた通り、髪を押さえながら大人しく待つことにする。