宮藤さんの方を見ると、笑みを浮かべながら二人と話を続けている。
…だけど。
その手は、時折揺れるスカートの横でぎゅっと拳を握られていた。ゆきくんと、軽い気持ちで付き合ってるわけではなさそうだ。握られている手は、微かに震えている。
「君は、彼女の、手のひらに食い込む爪の跡に気付いてる?」
今すぐアイツのブレザーの襟元を掴んで、そう囁いてやりたくなる。
…そんなこと、したくても出来ないけど。
湧き上がる感情ごと、ほうきの柄の部分を握りしめて、僕は宮藤さんを見やった。
「わざわざ来てくれたのに、ごめんね。」
申し訳なさそうな笑顔を浮かべて、宮藤さんは本田さんの頭を撫でる。
「んーん、仕方ないね。今日はゆきくんとデートするからいいよーっ」
本田さんは笑顔を浮かべて、ゆきくんの腕に自分の腕を絡ませる。ゆきくんは、そんな本田さんに微笑み返す。
…その無邪気さとしたたかさに、宮藤さんはどれだけ傷付けられているのだろうか。
事態を見守る僕を、宮藤さんは時折心配そうに振り返る。
そんなに心配しなくても、ゆきくんとのことをバラしたりしないのに。信用されてないんだな、僕は。宮藤さんを横目に、僕はわざと窓の外を眺めた。
二言三言会話したあと、本田さんは霞沢くんもまたね、と言って、ゆきくんと一緒に仲睦まじそうに教室を出て行った。
「…っかすみざわくん、あの」
二人を目で見送って、ドアが閉まったことを確認した宮藤さんは、気まずそうに僕の名前を呼んだ。

