「すずなーっ!」
宮藤さんと僕だけだった空間に、ドアを開く音と宮藤さんを呼ぶ声が混じった。
「里桜!…ゆきくん、」
そこには、本田さんと〝ゆきくん〟がいた。
本田さんは、ゆきくんの手を引っ張りながら宮藤さんのもとへと駆け寄る。
「どうしたの、里桜。」
ちらりとゆきくんを一瞥したあと、宮藤さんが諭すように本田さんに尋ねた。
「すずなとゆきくんとで、一緒に帰ろうと思ったの。クラスの子に聞いたら、すずなはここだって言うから。」
少し拗ねた素振りで、本田さんが言う。
まるで、宮藤さんの妹のようだ。
二人のやり取りを遠巻きに見ていると、〝ゆきくん〟が僕に会釈をする。
反射的に、僕も軽く頭を下げる。
そういえば、初めてこうやってまじまじと〝ゆきくん〟を見る気がする。
僕はまるで見てませんよ、という風にほうきを持て余しながら、目の端で〝ゆきくん〟を観察した。
桜井有希(さくらいゆき)、というのが、彼の本名らしい。
さくらいゆきという名前の響きがとてもよく似合う。
睦月のような、高校生特有の爽やかさはけしてない。寧ろ、そこが魅力なのかもしれない。
妖艶さ、とでもいうのだろうか。高い身長と、中性的な顔立ち。物静かな雰囲気が、高校生よりも遥かに歳上に思わせる。
…これが、宮藤さんが手に入れたくて仕方ない存在なのか。
そう思うと、今目の前にいるこの人物に、言葉に出来ない感情が渦巻く。

