「ねぇねぇ奏、今日の帰りカラオケ行かない?」

「ねぇ、僕たち受験生だよ?自覚してる?」

「奏ってば冷たい、それを忘れるために行くんじゃんかーっ!」



転校して、僕は我ながら素晴らしくこの学校に溶け込んだ。
女の子にも遊びに誘われるくらいには。
いつのまにか、霞沢くん、が奏くん、になり、奏、に変わっていった。

男子も奏、と呼んでくる。
睦月のおかげもあって、男子ともすぐに打ち解けた。




「…霞沢くん、これ。」

そのなかでひとりだけ、僕のことを霞沢くんと呼ぶひとがいる。


「…ありがとう、宮藤さん。」

そう、宮藤さんだ。



あのことがあってから、宮藤さんは僕と目を合わせようとはしない。
…当然っちゃ当然か。
宮藤さんにとって一番見られたくない場面を見られた上に、いつトップシークレットをバラされるか分からない。
そんな僕が、危険人物にならない訳がない。




…分かっていることなのに。
霞沢くん、と呼ばれるたびに、僕の気持ちはどこかに影を落としていくんだ…──。