涼ははっとして引き出しを引いた。
腕時計しか残っていない。
実に久しぶりに笑った。
愛されているのはわかっている。
なのに強硬に拒絶される理由が、やっとわかった。
そうだった。
綺樹は、そういう女だった。
笑ったまま、涼は片手で両目を覆った。
そしていつだって、こちらは気付くのが遅いのだ。
笑いをおさめ、写真集を手にしたまま、時計をはめた。
ここまで女にお膳立てされて、動かない男はいないだろう。
そして犠牲にしたものは大きいのだから。
さあ、出かけようか。
夢に見ていた世界へ。
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