* 「よお」 声に驚いて顔を上げると、綺樹が変わらぬ様子で、ふらりと入ってきた。 フェリックスの書斎机の前にあるソファーに、足を投げ出すように座った。 「順調?」 フェリックスが鼻先で笑って、目の前の栗色のつむじに問いかけた。 「どうしたんだ、いきなり帰ってきて?」 「ん? 離婚してきた」 奇妙な沈黙の中、綺樹は流れているピアノ演奏に耳を傾けていた。