”オモテの愛” そして ”ウラの愛”


「あの男が、あの男らしく生きるのを、隣で見ている方法は、あなたでも思いつかなかったんですか」


それが見つかれば、どんなに良かっただろう。

成介は意地が悪かったと思ったのか、すいませんと謝った。

綺樹は微笑したまま、遠くの方へ視線を移した。


「なんだか不思議だ。
 あれ程、継ぎたくない、潰れてもいいと思っている家だったのにな。
 一族の者には嫌われているって言うのに。 
 捨てられないんだ」


少し首を傾げた。


「父も兄もいるのに、ずっと根無し草のように感じていたからかな。
 流れる血と、生まれた国と、育った土地と、バラバラで。
 一体、自分がどこの誰なのか。
 何者なのか。
 それがあそこにあった。
 気が付いてしまうと、駄目だな」


綺樹はどこか寂しげだった。