*
不意に自分の意識を取り戻し、綺樹は目を開けた。
天井が見える。
感じていた重さは涼の体だった。
こんこんと眠っている涼の顔があった。
なんと無防備なのだろう。
今なら簡単に殺せる。
綺樹は片腕を動かした。
顔の前に手の甲を掲げると、しばらく眺めていた。
自分で蓋をした過去の嫌な思い出が、さっき涼に押し倒されたことで、少し蘇っていた。
何が起きたのか、新聞記事のように他人事として知っている。
だけどその時のディテールについては全て忘れていたのに。
少し思い出したにしては、自分が冷静だと思った。

