綺樹が自分に怯えている。 怖がり、逃げ出そうとしている。 なぜ? 他の男は大丈夫なのに? 旅行に一緒に行っただろう男は大丈夫なのに? だからか。 その男がいるからか。 だから結婚した初めから、プライベートは自由だといって、自分を一切近づけなかったのか。 誰だ、その男。 胸の中で怒りが破裂する。 涼がグラスを置こうとした一瞬に、綺樹は背を向けた。