涼が通り過ぎていく。 綺樹は反対の方向へ、リビングへ出ようとした。 あせりから、そのタイミングが少し早かった。 動いたことで、綺樹の使っているシャンプーの香りがたなびく。 二の腕を掴まれたのに、綺樹は凄い勢いで身を引き、腕を取り返した。 反動で後によろめく。 「やめろよ」 綺樹が自分の行動を打ち消すように、しかし幾分恐怖を残したまま笑った。 涼はそれをただ眺めていた。