”オモテの愛” そして ”ウラの愛”

 
  *

歩き方でも、ダンスでも、言葉遣いでもない。

なによりも綺樹にとって一番辛いしごきは食事だった。

ナイフやフォークの持ち方は別にいい。

ワインをがぶ飲みするのを止められるのもいい。

ただ食事を全部平らげなくてはならないのが辛かった。

元々食べる量は少ない方だ。

その上、スペイン料理の味付けと油が胃に堪える。

限界を感じて、綺樹はナイフとフォークをテーブルに置いた。

今夜は本当にもう無理だ。


「全部食べるんだ」


フェリックスは見向きもせずに言い放った。


「無理」

「おまえのために栄養からカロリーまで計算して出してある。
 全部食べなければ意味が無い」

「食べられない」


綺樹は軽く両手をテーブルに打ち付けた。