「うん」 耳を傾けたのに、綺樹の目の焦点があやふやになった。 こういう表情を、夫である涼が見逃したのは可哀想だと成介は思った。 普段は硬質な横顔が柔らかくなり、子どものようなあどけなさが現れ、この人の危うさが露呈する。 自分がそこを守ってやらないと、と男に思わせる。 遊び人の技術じゃない。 真に、この人の恐ろしいところはそこだ。 綺樹の焦点が壁に戻った。