”オモテの愛” そして ”ウラの愛”

脈を計っていた腕をシーツの下に戻す。

疲れもあるのだろう。

綺樹の寝顔を見下ろし、湿っている乱れた髪の毛を指ですいてやる。

心なしか綺樹の表情が緩んだ。

また涼の夢でも見ているのだろうか。

自分がなぜこんなに迷うのかわからなかった。

迷う理由は、似ているからだろうか。

10代になったばかりの時に、ここで会ったあの人に。

顔も、男に対する愛情の抱き方も。

フェリックスはしばらく綺樹を見下ろしていたが、やがて鼻先で笑うと、いつもの冷ややかな眼差しに戻る。

そして部屋を出て行った。