捏ねた粉と、刻んだバター。
重ねて伸ばし、折り畳んでは伸ばしを繰り返し、1つ分の生地だけをオーブンに入れた。
凱司はまだ起きてこない。
昨夜、飲みに出たきり、何時に帰って来たのか解らなかった。
具合悪いとか…ないよね?と、ふと心配になる。
酒に弱そうではなかったけれど、二日酔いくらいはするのかもしれない。
二日酔いとは、頭の痛いものだったか…気持ちの悪いものだったか。
はっきりとは分からないまま、テレビで見たように、雅は。
氷を浮かべた冷たい水を持って、凱司の部屋へ向かった。
ドアをノックしても、返事はない。
開けていいかな、とドアノブに手を掛けてから、躊躇した。
入室をしたことがない。
ドアから声を掛けた事はあるけれど、踏み入った事は、ない。
細工の綺麗な、真鍮色のノブは少しも軋む事なく押し下げられて。
少し、開いた。
「凱司さーん…」
少しの隙間から、静かな中を覗き込んだ。

