雅は。
自分の顔が赤くなっていることを、自覚していた。
熱い。暑い。
目が回る。
ちょっと駄目かも、と胸を押さえてその場にしゃがみ込んだ。
嫌な人じゃないのに、と。
胃が。
ぎゅ、と掴まれたような、感覚。
強烈に額を意識しているけれど、触ることは出来なかった。
固く目を閉じた。
額に唇が触れた時、鷹野の黒い髪が頬に触れて。
目の前いっぱいの、鷹野の喉。
…あれ?
開いた襟の…?
肌に模様が見えたような?
「………鷹野さんも、刺青?」
ぱっ、と。
鷹野の出ていったドアを見たけれど、当然そこに、鷹野は居ない。
妙に速くなっている鼓動を落ち着かせるように、深呼吸をすると、1時間後に起こさなければならない凱司の為に、時計を見上げた。
「…パイ生地…作ろ」
雅は立ち上がりながら落ち着かせるように、大きく息を、吸い込んだ。
肩を抱かれ。
傍に寝転がり。
頭を撫でられる。
どれも、こんなに恥ずかしくはなかったのに。
多少の怖さと、多少の安堵とが相まって、訳が解らず緊張するくらいだったのに。
雅は刻んだバターを皿に移し変えて、手を止めた。
「一樹、さん……?」
ぽつりと呟いてみて、雅は一人で。
再び真っ赤になった頬を、押さえた。

