「……大したことねぇな」
凱司の腕を這う蛇が、雅の視界を埋める。
前髪を軽く掴まれ、上を向かされている為に、凱司の顔は見えない。
「お前、生きてるな?」
「…生きて…ます」
「犯られたのは2年前。お前は今、俺の庇護下。体を売る“必要”は、ねぇよな?」
うん、と頷く雅は、大人しく蛇を見つめている。
「お前は、俺のだぞ?」
手を離され、思いの外、優しげな凱司の目に戸惑った。
「お前は生きてて、俺のだ。だから、大丈夫。トラウマごときで真剣に悩むな。怖いときは立ち尽くすんじゃなくて、俺でも鷹野でも、すがれ」
胸の内が凍るような感覚は、ゆっくり溶けていく。
凱司の言うことを鵜呑みにして、自己暗示をかけたならば。
この、しこりのような恐怖も消えるのかもしれない。
…だけど。
だけどね凱司さん。
やっぱり、あたしはね。
自分の体なんか、
どうでもいいの。
だって。
どうでも良くなきゃ、何にも出来ない。
学校にだって、行けない。
いつ、誰に、何をされるか解らないから。
泣くのは嫌。
怖いのも、嫌。
凱司さんの言う通り…
何をされても 、“大したことない”んです。
…それが、一番、です。
ちゃんと、わかってます。

