「…ただ…怖い、だけ…なんです」
白いカップから上がる湯気を見つめながら、雅はポツリと言った。
「今も…ちょっと怖いだけ。大したことないんですけど……あたし、…初めてだったから…」
ゆっくりと、手に持ったままのフラスコを元の位置に戻して、雅は凱司の正面に腰をおろした。
「知らない人と寝た後、…いくら優しくされたって……必ず吐いちゃうんです。…大丈夫、大したことじゃない、ってわかってるのに」
…吐く? と、隣で呟いた鷹野に、頷いた。
「…あたし汚い体してるし、もう、知らない人に何されたって全然平気…な筈…なのに、どうしても…」
ほんと、大したことじゃないのに…。
「いつの花火大会だ」
何があった、とは聞かない。
凱司の詰問するような口調も、微かに哀れみを帯びて。
鷹野に至っては、すでに頭を抱えている。
「…おととし。友達とはぐれて…凱司さんに拾って貰った日みたいに……雨が…急に降って来て…風と…」
………雷、が。
ぽたり、とテーブルに涙が落ちた。
「…13……は…ねぇだろ」
頭を抱えたまま吐き出すように呟く鷹野を目の端に。
凱司は黙って腕を伸ばし、雅の顔を、上げさせた。

