「あ…、ごめんなさい……あたし、花火大会は……」


泣きそうな目は伏せられて。

血の気の引いた全身が震えるのを止められないのか、手にフラスコを持ったまま。
ぎゅ、と自分を抱き締めた。


「大丈夫。ごめんなさい、大丈夫です。…あたし、明日はケーキ焼きたいから……お二人で、行って、ください」


自分でも誤魔化しきれていないのは解っているのだろう。

雅は、大丈夫、大丈夫と繰り返し自分に言い聞かせるように呟くと、俯いたまま、笑顔を作った。



「…雅」


凱司の、低い声が呼ぶ。

その声に含まれた怒りに、雅は思わず目を上げた。



「無理に、笑うな」


睨み付ける程ではない。
けれど凱司の、キツい視線に射抜かれて。

胃の中に氷が落ちてきたような、そんな感覚に、雅は笑顔を歪めた。



「……何か、あった?」

一歩後ずさった距離を敢えて踏み込んで鷹野は。
硬直したまま下も向けない雅を、腕に抱く。

ぴくり、と肩が震えたのを押さえつけて。
頭ごと、胸に押し当てた。



「言わなくて構わないから、泣かないで?」


優しく囁く鷹野を、凱司は苦々し気に見やり、再び煙草をくわえた。



「…雅。……吐いて、泣け」

「………言いたくない事だってあるだろ!?」



「お前は黙ってろ。…雅、大丈夫だ。泣け。大したことねぇんだ。何があったとしても、今となっちゃあ……大したことねぇんだから」


吐いたら楽になる、と凱司は言い切り、咥えた煙草に。

火を点けた。