雅は。
明るい街路灯を避けるように、道の向こうの、鷹野の職場を見つめた。
墨色の建物からは、蝋燭のような柔らかい光が洩れている。
今日はもう、鷹野はあそこにいたはずだ。
だけど、自分を迎えに来ることは、ないだろう。
もしかしたら、もう、帰路に付いたかも知れない。
もう、いないのかも知れない。
雅は、ゆっくり歩き出す。
以前、ひとりでこの道を来たときには、泣きながら歩いていた。
恩があるのだから、凱司だけを愛せ、というような事を友典に言われて。
そんなことしたら。言ったら。
凱司さんは、困る。
でも優しいから、どう自分を遠ざけるか悩むに違いない、と。
ほら。
そう、なったでしょう?
甘えた、罰。
“好き”だなんて、感じちゃいけなかった。
凱司さんにも、鷹野さんにも。

