淡々と。
至極淡々と与えられた仕事をこなす雅に、何も言わずに心配していたのは、カフェのマスターも同じだった。
いつも迎えに来る鷹野は、そろそろ出勤しても良いだろうに、一向に現れる様子がないのだ。
最初に持たせた、プリンの型は、きれいに洗って返され、すでに雅の笑顔には、陰の落ちた後だった。
同じ学校の男子生徒と思われるお迎えは、今日は来ていない。
「今日は、おひとりで帰られるんですか?」
思わずそう訊いたことに、雅はぴくりと動きを止めると、ひどく悲しそうな顔をして、頷いた。
もしかしたら、別れてしまったのだろうか…?
あんなに、睦まじい様子だったのに。
「では今日はもう、上がってください。ひとりならば早く帰らないと」
時計を見やったマスターは、雅の手から、くるみ割りの道具を抜き取ると、敢えてにっこりと、微笑んだ。

