赤いエナメルで出来たミュールが、こんな時であるのに妙になまめかしく目を引いた。
雅の姿を確認した友典の顔が、心底安堵したように一瞬紅潮したことに、鷹野は苦々しく目を閉じる。
けれども雅は。
ガラスのドアを開けなかった。
内側に留まり、取っ手に手を掛けはしたが、開けないままに引っ込める。
友典と由紀とを泣き出しそうな目で見比べ、一歩後ずさると、何も言わないまま鷹野を見つめた。
「…雅、さん」
気になって急いで駆け下りたは良いけれど、いざ目の前に立つ友典に躊躇したのかも知れない。
怯えたような色を、隠せなかった。
ドアの素材は、防弾で、防音。
無色透明ではあるものの、確固たる、壁。
中と外とでは、意志の疎通はおろか、言葉一つ、通さない。

