「…なんですぐ追わなかった」
「………」
「何故…見失った!」
「………」
「どうして、泣かすような事ばかり…!!」
殴りは、しなかった。
ただ、掴み上げた胸倉を、そのまま投げ捨てるように、突き飛ばす。
「………雅、さんに…会わせて下さい」
反論する事もなく、突き飛ばされたまま、足元の白いコンクリートへと手をついた友典は、それだけを繰り返した。
「一樹さん…、章介さんが帰国したら、友典は謝る事さえ出来なくなるかも知れません」
ですから、お願いします。
と、ついに頭を下げた由紀を横目に、鷹野は友典の襟首を掴み、立ち上がらせた。
「…きっと、もう降りてくる」
ぎり、と歯の鳴りそうな、怒りを押し殺したような鷹野の声が終わるか終わらないか。
転がるようにして走り降りてくる雅の素足が、ガラスの内側に、現れた。

