「凱司居ないの知ってて、先に雅ちゃんを懐柔しとこうって事ですか」
鷹野は、ガラスのドアの外に立つ友典と、きっちりとその隣に立ち、珍しく苦渋を滲ませる由紀とを、冷たく見つめた。
背後で閉めたドアは通しはしない、と、その前にたちはだかるように。
「いいえ、ただ、ひとこと謝って、これをお返ししないとと」
きちんと差し出された雅の、アルマーニのフラップショルダーを、黙って受け取り、鷹野は何も言わずに俯いている友典を、苛立たしげに見やった。
「雅さんは、どうなさってますか?」
気がかりそうに鷹野の後ろに視線をやった由紀が、姿を表さない雅を気にかける。
「お会い、できませんか?」
「させたくありません」
きっぱりと言い切った鷹野は、ただ俯き立っている友典を、睨みつけた。

