「雅ちゃん、なんでそんなに緊張してる?」
今までより数倍、俺を意識してるのが解る、と。
あまり虐めても可哀想かと、鷹野は僅かに空気を緩めて笑うと、缶を押さえていた左手で、雅の唇をなぞった。
このくらいならば、いつもしているから、大丈夫だろう、と。
「だっ…て…!」
「ほら、紅茶開いたよ?」
右手は、木のスプーンを雅の手に渡す。
受け取ろうと、一瞬雅の意識が唇から逸れたのを見計らって、人差し指を、口内に、差し入れた。
「……っ…」
歯列は、急に入ってきた鷹野の指を、それでも噛まないように震えた。
雅の口内で、温度を確かめるようにゆっくり動く指は、その舌が柔らかくほどけ始めるまで執拗に、ゆるゆると。
濡れた音を、立てる。
今度こそ取り落とした木のスプーンは、缶には戻らずに、シンクに落ち、硬い音を、たてた。

