友典は、いなかった。
強化ガラスのドアも、きっちりと閉まったまま。
雅の荷物もなければ、書き置きひとつ、ない。
あのアルマーニの中には、ここの鍵があるはずなのに。
「…明日………」
不意に、雅が声を落とした。
「学校……休みたい」
ウォレットチェーンは、凱司の物よりも華奢な、それでもフェザーの彫刻の綺麗な、シルバー製。
手を離して、鍵を差し込んだ。
上段は、鍵穴すらない、電子キー。
下段は、ピッキングに不向きなものらしい。
「いいよ」
ドアを開けて、押し込めるように雅を“しまいこむ”。
内側から鍵をかければ、例えガラスの向こうに何が居たって、雅を持って行かれる事はない。
「凱司が戻るまで、行かなくていい」
避けては通れない話題だろう。
友典の事も、凱司の事も。

