「…ほらあんまり見えないじゃないか」
暗くて。
ぎこちない空気をものともせず、佑二はまっすぐにベランダの窓を開けた。
何を思うのか、雅の手を離そうとはしない。
「…ちょっと、暗いですね」
「一樹くん、あの木って人ん家の庭?真下行けんの?」
こちらも、手を離さない。
雅は、唯一離れている昌也に助けを求めるように、視線を上げた。
「…佑二の方、抜けると思う」
ジェスチャーを交え、声を出さずに口をぱくぱくした昌也に、雅は、そっと、手を抜こうと動かした。
「…………なに」
ぎゅ、と掴まれ直した左手は抜けることなく、佑二の前髪からちらりと冷たい目が覗く。
「……そんなゆっくりでほどけると思うの?」
「あ…いえ……」
じっと雅を見つめる佑二の目が、再び隠れ、手が離された。
面倒臭そうに鷹野の方へと雅を押しやった佑二は、深々とため息を吐いた。
「……嫌なら嫌って言えば?そんな曖昧な態度とるからキスなんかされんじゃないの?」
「……え」
ぴく、と肩が震えた雅に、室内が凍りついた。

