「お前は俺のもんだ」


雅の唇に、口紅を当て、決して横に引いてはいけない。

塗る、ではなく、乗せる。


「なのに、鷹野に流され過ぎだと…思われたんだろうよ」


手慣れた甘い所作に、呑み込まれるのも、時間の問題。

髪にしろ、唇にしろ、キスにしろ。
なすがまま。



「…でも」

「喋んな。はみだす」


おとなしく上を向いたままの雅の唇に、何度も色を触れさせる。

丁寧に。



「友典は、心配なだけだ」

お前が、鷹野になびいて行くのが。



「俺のだって言ってんのにな」


指先で上を向かせたまま、色の付き具合を確かめる。


「心配すんな。お前は好きにすればいい。友典が何を言おうと、必要以上に怖がる事はない」



「………凱司さん近い」


吸い寄せられるように唇を寄せれば、雅は目を逸らして押し返す。



「……待っ…」

「減るもんでもねぇだろが」


「そっ…うだけど…!!」


押し返されたまま動きを止めた凱司は、雅の真っ赤になった顔を、まじまじと眺めた。



「…口紅、ついちゃうから…」

「…………」



ああ、こうだから。

いつまでもこんなに、従順に甘えるから。


だったら。

たまには、普通にキスくらいさせろ。

あんな、犯すようなものではなく。

甘くて、青いキスくらい。



…こんなもので、食い止められやしない…だろうけど、も。