雅の髪がすっかり編み上がる頃、隣と言えど、国外に出るにはずいぶんと軽装な凱司が、現れた。


軽く挨拶を交わし、時計を見やった凱司は、毎朝の光景に何を言うでもなく、保温されているコーヒーを注いだ。



「まだ、時間あんだろ?」

「ええ、雅さんの登校に合わせて来てしまいましたから」


テーブルの、友典の隣へと腰をおろした凱司は、煙草に手を伸ばすと、1本を咥えて火をつけた。


「お前も、煙草くらい自由に吸え」


いつも、凱司の前では、控え気味な宇田川に、煙草の箱ごと滑らせた凱司は、友典はまだ駄目だな、と、煙を吐き出した。




「凱司さん凱司さん」


鷹野の膝の間から抜け出した雅が、小走りに凱司に近づいた。



「似合いますか?」

「ああ、似合う似合う」



「………投げやりですね…」


軽くショックを受けたような顔を作り、それでもすぐに笑った雅は、友典を振り返った。


「お待たせしました。もう行きますか?」


いつものアルマーニの通学バッグを、髪に触れないように頭から通しながら雅は、鏡も見ずに笑顔をこぼした。