「あれ、宇田川さんおはよー」
リビングに入ってきた鷹野と挨拶を交わす間にも。
友典の緊張が増したことに、ますます宇田川の眉間に皺が寄る。
「友典も、はよ」
僅かに堅く頭を下げた友典に、どこか含みのある笑顔を向けた鷹野は、雅を手招いた。
「雅ちゃんおいで」
「はい、お願いします」
いつもの事なのだろう。
ソファに座った鷹野の開いた足の間に、雅は後ろ向きで収まった。
くるくると蓋を外した容器からクリーム状のものを手に取った鷹野が、自分の掌で馴染ませ、雅の髪を大きく掬い上げる。
「毎晩、手入れをしているとは聞いていましたが…朝もなんですか?」
すり合わせるように雅の髪に馴染ませながら、鷹野は、そうだよ、と笑む。
「せっかく前髪短いんだから、三つ編みとかどう?」
「…中学生に見えたりしませんか?」
「見えないように編むから」
友典の、拳が握られた。
穏やかではない息子の様子と、イチャイチャ、としか見えない鷹野と雅の距離とを見比べて。
宇田川は、厄介事が持ち上がった時のような、ちょっとした焦りを、感じた。

