「そういう、世界なんだ」
面倒くせぇけどな、と、唇の端を上げた凱司に、雅は頷いた。
「お前は、気にしなくていい」
と笑った凱司は、着替えを止め、ベッドに腰掛けた。
「…今日は床なのか?」
「………だって…」
「………」
なんだ、ちゃんと解って来てんじゃねぇか、と。
凱司は苦笑すると共に、僅かに沸き上がった寂しいような感覚を圧し殺した。
実際のところ、何もしねぇよ、と言うには何か、し過ぎたのは事実だ。
どこまで正しく警戒しているのかは、疑わしいが。
「まあ、そうだな」
ベッドの脇に置かれた灰皿の陰から、何かを手にした凱司が、雅に合わせて床に座り込んだ。
「手、出せ」
怪訝そうに右手を開いた雅の掌に、たらりと、金属が落とされた。
「悪かった、な」
「あ…鷹野さんのプラチナ?」
慌てて左手も出して、両手で受けた雅の嬉しそうな顔に、凱司の胸がチリリと灼けるけれど。
そのまま雅の首筋を、指で押さえた。

