「…怪我、したのは友典さんです」
小さく呟かれた声に、ふと左頬を撫でるけれど。
特に皮膚が裂けたわけでも、骨が陥没したわけでもなく、鼻血すら出ていない。
「………別に、問題ないです」
何よりも雅の泣き出しそうな目を、なんとかしたかった。
怪我がないのは当たり前。
友典は、いきなり肩を掴まれて、体を反転させられた。
目の前を、艶やかな黒髪が掠める。
「馬鹿。お前が殴られてどうすんだよ」
「…………」
「あーあー…コレ腫れるわ」
覗き込むような、鷹野の目。
両手で顔を掴まれ、左頬を親指でなぞられる。
「………なっ、にすんだよっ」
一瞬以上は確実に、その目に見惚れていた事に気が付いた友典は、赤くなった顔を背けた。
「雅ちゃんは大丈夫だね、ハンカチ持ってる? 田鹿くん、お茶ちょうだい」
てっきり、雅の心配をするとばかり思っていた友典は、手早くハンドタオルを差し出した雅と、いつから居たのか、おろおろとペットボトルを差し出す田鹿とを。
奇妙な感覚で、見比べた。

