うまかった、んじゃないだろうか。
この手のものはあまり聴かない友典でも、そう思えた。
5曲を終えた所で、一斉に照明が落ちる。
真っ暗な中、ボーカルが何か挨拶らしきものを言っているが、あまり聞こえなかった。
天井に蛍光灯がついて初めて、ライブハウスの全貌が見渡せたが、いかにもチープな、小さな煤けた世界であった事に、意外な気がする。
客の捌けないうちから、早々と片付けが始まる。
雅はまだ隅に居たけれど、友典は弾かれたように足を踏み出した。
人が外に出ようと進む流れに逆らって、波を掻き分ける。
アレは、誰だ。
雅の腕を掴む、男。
耳は、膜が張ったようにくぐもった音しか通さないし、混み合う人のざわめきも笑い声も、男が雅に言っているだろう言葉を聞き取りにくくしていた。
アレは、うちの学校の奴だ。
友典は、雅の困り果てた顔が、泣きそうに歪んだ事に、焦った。
腕を掴む手は、明らかに優しいものなどではなく、怒鳴り付けているかのような剣幕は、女の子に向けて良いものではないレベルに、見えた。

