雅は笑う。
嬉しそうに、幸せそうに。
ひとりだけ毛色の違う、ステージ上の鷹野一樹を見つめて。
ひずんだ機械音のような、空気のうねり。
鷹野の指が生み出す、音。
一度もこちらを見ない雅の、陶酔したような表情に、ちくりと胸が痛んだ。
やっぱり少し、離れていよう。
せっかく愉しそうなのに、邪魔をしたら可哀想だ。
友典は、雅の傍からそっと離れ、入り口付近に立っていようと、振り返った。
音は、ズレない。
要所要所の弾き合わせをやっただけであろうに、堂々と弾き上げる鷹野一樹の顔も、出来れば見たくない気がした。
凱司だけのものでいて貰いたい。
雅は、凱司が大事にしているひと。
だから、自分も守って行く。
なのに何故。
何故、鷹野一樹に触れさせなければならない?

