雅の傍には加奈子がいたから。
だから少し離れて立っていた。
腹に響く音は、低い、重い、バスドラムと、ベースギターの音だ、と思う頃には、耳も脳も慣れ、スペルはバスもベースも同じだろうか、などと考える余裕も出来ていた。
クラスメイトの加奈子と体を寄せ合って楽しそうにしている雅は、リズムに乗るでもなく、幸せそうに笑っている。
暗い。
チカチカと、床も壁も天井も無いほどに光が点滅し、揺れる。
知ったような顔も、多い。
友典は、ステージ上の佑二を苦々しい思いで見つめ、その金茶色の髪が、キラキラと綺麗に見えたことに、眉を寄せた。
ふいに音が止み、一瞬、耳に膜が掛かったかのような無音。
雅を見れば、加奈子と共に前の方へ移動する所だった。
呆気ないほどあっさりと演奏を終えたのか、さっさとステージから居なくなった佑二に、次のバンドと交代なのだろうと、思った。
雅は、ステージに張り付く加奈子と離れ、右の端にひとり。
小さいから、見失いそうだ。
ひとりで立っているならば、もう少し傍に、と友典は混み合う中を、一歩踏み出した。

